numero 25
バッカラとストッカフィッソ Baccala'e Stoccafisso



 衣料品のなんと安いこと。あちらには靴、こちらには台所用具が、そして向こうの一角には食料品のテントが並んでいます。ここは毎週土曜日にたつドモドッソラの青空市場。街の中心地の道路や広場がこの日の午前中だけは店が立ち並んで様変わり、それを目指して近郊からもたくさんの人がやってきます。
 イタリアに着いたばかりの研修生たちは、何もかもが珍しく、カメラ片手に早朝からウロウロ。日本では見たことの無い野菜や、豆類、そしてアンチョビなどが所狭しと並んでいるのを見て興奮を抑えきれません。中でも長く留まっているのが、軒先にぶら下がっている干ダラとその下に重ねられている塩ダラの前です。
 干ダラはたたけば棒のようにコツンと音がし、日本で使われているものよりもかなり硬そうです。塩ダラは、塩にまみれているので、水で戻して売っているところもあります。干ダラはストッカフィッソ、ドイツ語の棒のような魚−ストックフィッシがイタリア語化したものです。原産地はノルウェーのロホーテン島で、かの地の冷たく乾いた空気が品質を落とさず中心まで乾燥させるのに最適ということで、いまでも高級品と言えばロホーテン島産となっています。
 ストッカフィッソが最初にイタリアのレシピに登場したのは1570年のこと。ローマ法王のお抱えコック、バルトロメオ・スカッピの本の中にある「乾燥メルルーサのいろいろな調理法」がそれだと言われています。この中では乾燥したものを戻すために、8時間水につけてから調理します。一方バッカラは、スペイン語のバカラオから派生した言葉で、スペインが原産地とされています。つまりスペインの捕鯨船が行った海域で鯨が獲れず、同じ場所にいるタラを捕獲して、鯨と同じ保存法である塩漬けにしたところから生まれたとされているのです。こちらも水につけて塩を抜いてから料理します。
 バッカラを使った料理の代表的なものは、ローマ名物“フィレット・ディ・バッカラ”塩を抜いたバッカラの切り身に衣をつけて揚げた物で、熱々を食べます。ストッカフィッソは、その繊維を生かして乳鉢ですりつぶしオリーヴ油を含ませた“バッカラ・マンテカート”や牛乳と一緒に弱火で煮込んだ“ヴィチェンツァ風バッカラの煮込み”が有名です。ここで混乱するのはストッカフィッソの料理なのにバッカラとしていること。北イタリアでは、なぜか干ダラのことをバッカラと呼んでいるのです。ストッカフィッソもバッカラもイタリア郷土料理の大切な食材、研修生たちはこんなことをひとつずつ憶えていきます。

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