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ペコリーノ Pecorino
どこまでも続く丘陵地帯、道の両脇には皮をはがされたコルクの木、そしてあちこちに羊の群れが散らばっています。そうここはサルデーニャ島、別名羊飼いの島とも呼ばれているところです。羊飼いたちが引き連れる羊の数は島の全人口の3倍もいるのだとか。当然羊に関する産業が発達するはずです。しかし北ヨーロッパと違い暖かいサルデーニャでは羊毛産業はあまりなく、もっぱら羊乳のチーズ、ペコリーノの王国となりました。 イタリアでペコリーノが歴史に登場するのは大変に古く、紀元前の古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」に始まります。主人公が一つ目の巨人ポリフェーモの住居である洞窟に侵入した時に羊とそのチーズを発見するのです。この舞台はシチリアだとされていますが、当時の地中海諸国でも同じことだったのでしょう。 さて、研修生が向かったのはサルデーニャの真ん中にある牧場です。そこでは羊を放牧し、昔ながらの方法でペコリーノを作っていました。 搾乳時間になると優秀な牧童犬が、放牧されていた羊たちを追って搾乳場に連れてきます。中に入り一列になって餌場に顔を突っ込み食べ始めたかと思うと、ガチャンと機械についている首輪が締まり、羊は逃げられなくなります。つぎにラインダンスでもするように、そのまま後ろに移動、乳房を消毒されて搾乳機がつけられます。 ここまでは近代的な方法なのですが、昔ながらの方法というのは、この次から始まります。しぼれた羊乳は銅製の大きな鍋に入れられ、子羊の体温まで沸かされます。ここで凝固酵素を入れるのですが、それがなんと子羊の胃そのものだったのです。これで壁につるしてあったものの正体がようやくわかりました。子羊からとった、食道のついた胃を乾燥させたもの。
中を切って見せてもらうと、白とベージュ色のパスタ状のものが入っています。これは母乳が胃の中で消化されて固まったもので、チーズを作るうえで不可欠な凝固酵素がたくさん入っているのです。このパスタを適量とり、温めたなべの中に入れると乳はヨーグルトのように固まり始めます。そこから一連のチーズつくりが始まるのです。小屋の片隅では骨を抜いてタコのように開いた乳飲み子豚が暖炉の火で焼かれています。強火の遠火でゆっくりと焼かれた皮の表面はこげて、なんともいえない匂いが漂ってきます。子豚を焼いている煙は小屋の上のほうに上がり、そこはペコリーノの熟成所。こうやって薫煙をかけていたなんてなんという知恵でしょう。しかしこの製造法は今年限り。翌年からは法律でチーズを作るためにはコンクリートの床、専用の建物が必要になるとかで、この場所は使えなくなるのだそうです。伝統が変わっていく前に、昔からの製造法を見た研修生たち、二度と見られないかもしれないこの風景をしっかりと心に刻みつけたことは言うまでもありません。 |
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