numero 13
アーモンド Mandorle



 違う季節に幾度かシチリアを訪れると、同じ場所にあるアーモンドの木がその度に違う顔を見せてくれることに驚きます。
 春には、日本人ならばすぐさま桜と勘違いしてしまうような薄いピンク色の花を木一杯につけます。初夏になるとその花は、薄緑色のビロードのような光沢をした実に変わり、秋になるまでに果肉の部分が徐々に乾いて種を包む殻と一体となります。そしてその中から私たちの知っているあのアーモンドが出てくるのです。  オレンジと共にシチリアのシンボルともいえるアーモンドの木、実の生産量はイタリア国内生産量の80%にもなります。歴史的にも古く、シチリアには古代ギリシャから到着したといわれ、当時は“ギリシャのクルミ”と呼ばれていたとか。
 さて“土地の食材から作られるのが郷土料理”ならば、シチリアにはアーモンドを使った料理の数々があるに違いありません。まず頭に浮かぶのがビアンコマンジャーレ(ブランマンジェ)、アーモンドパウダーをゼリ―状にかためたお菓子でしょうか。面白いのが、この名前が中世の料理書の中では鶏を使った白いスープとしても紹介されている事です。このように中世ではアーモンドは流行食材として現在よりももっと料理に使われていたようです。しかし今ではその数も少なくなり、ほとんどが製菓用に使われることになりました。 シチリアにいけばどこにでもあるというフルッタ・マルトラーナはその代表格。マジパンをつかって本物そっくりの果物を作ったものです。これはパレルモにあるマルトラーナ女子修道院で、冬に大切なお客様をお迎えする時に作られたのが始まりとされ、修道院の名前がそのままついているお菓子です。日持ちするのでお土産にも最適ですが、丸ごと食べるのは、私たちにはちょっと重過ぎるかもしれません。でも、飾りとしてテーブルに置いておけば、シチリアの雰囲気がして、なかなか素敵です。
 
 またアーモンド乳、latte di mandorleも知られています。バールに行くと真っ赤な血の色をしたオレンジジュースの横に必ずある白い飲み物がこれ。アーモンドを乳鉢ですり、シロップと混ぜて水でのばした物なのですが、本来はオレンジ水を混ぜ込んだ香り高い・・・私たちには香水を飲んでいるような・・・物だったそうです。
 アーモンドを粗く挽いてメレンゲと混ぜて焼いたアマレット(マカロン)に欠かせないのが、独特の風味をつける苦いアーモンド(Mandorle amare)の存在。リキュールにも欠かせませんが、ただ手に入りにくいので今では杏の種で代用する事も多いようです。
 研修生達が驚いたのは、訪問したお宅の庭先になっていたアーモンドを食べた時です。知っている形からは想像もつかない、まるで楕円形に引き伸ばした青梅のような果実。枝一杯になっているそのうちのひとつを手にとり、指で強く押せばパリッと割れます。中からでてくるのが生アーモンド。噛むとあのカリッとした歯応えはなく、固いゼリーをつぶすような感じ。でも口の中に広がってくる芳香はまさしくアーモンドです。
「季節が違うと、同じ食材なのに全く違う物みたいだ」当たり前の事を実感した瞬間でした。

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