numero 12
キアーナ牛 Razza Chianina



 ローマから高速道路に乗って北上していくと、周りには果樹園、小高い丘の上には紀元前イタリア中部にいたエトルリア人が建てた町、ただ走っているだけでも次々と現れる景色に飽きることはありません。さて、フィレンツェに行く手前にヴァル・ディ・キアーナという出口があります。キアーナ・・・フィレンツェを代表する肉料理“ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ=フィレンツェ風Tボーンステーキ”の材料となる牛肉の生産地です。キアーナ牛は名前は有名でも今では生産量も減って、フィレンツェに行ってもこの牛の肉をつかったビステッカはあまりお目にかかれないといいます。でもイタリア料理に関わる者ならば、一度は食べておきたいものの筆頭です。
 イタリアでは、雄牛は農耕用に、牝牛は乳牛にと使い分けられていた時代が長く続き、ほとんど食用にはされてきませんでした。牛を食用とすることは、労働力と、牛乳から作られるチーズを失うことを意味するからです。しかしそれならば何故“ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ”という牛肉を使った料理が生まれたのでしょうか。これは近くにフィレンツェという豊かな都会があったことが原因でした。いくら美味しいものでも、それを買う人がいなければ生産することは出来ません。まして高価なものであれば余計です。ところが貴族達のいるフィレンツェでは受け入れることが出来たのです。きっと料理名の“フィレンツェ風”は調理法でもなく、生産地でもなく、“こんな高価な食材を使うことの出来る土地”という意味が含まれているにちがいありません。
 
 しかしキアーナ牛はなんと美しい牛なのでしょう。その美しさゆえに古代ローマ時代から神にささげる牛として大切にされてきたのもうなずけます。真っ白な体に黒い目と鼻、成長した雄牛は1.4トンにもなるという巨漢、通常は18ヶ月600キロ程度になると食用にされます。
 キアーナ牛の牧場を後にして研修生が行ったのはこぎれいなリストランテ。次々とキアーナ牛を使った料理が運ばれてきます。スカロッピーネに煮込み、それから・・・しかし待てど暮らせど、かのビステッカは出てきません。「前もってメニューを知らせておいたでしょう」「え、ビステッカが出るのは当然のことなので、それ以外のメニューだと思っていた」という不毛な会話の後、何軒もの店を回ってキアーナ牛を手に入れなければならなかったことはいうまでもありません。

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