numero 4
小麦粉 Farina di Grano



 リグーリア州ラ・スペツィアの近くには、この州独特の険しい地形から、昔は海からしか出入りすることの出来ない村がいくつもありました。その村に残っているのが、海が荒れて漁に出られない時の食材である豆や小麦を使ったズッパ“メスチューワ”です。“メスチューワ”は何種類かの乾燥豆を別々にゆでてから合わせ、塩味をつけただけのものですが、そこに加えた粒小麦のプチプチとした食感がアクセントになった魅力的な料理です。ところがこのように小麦を粒で食べるのは世界でも珍しく、イタリアでもリグーリアをはじめとしたわずかな州でしかみられません。
 しかしなぜ小麦は粉にしてから食べるのでしょうか。それは小麦の皮の部分が、米のようには簡単にはがれないからです。また粉にすることによって、料理の数は無限大に広がるのです。 粉にするためには、すりつぶしてからふるいにかけるという動作を繰り返し、フルイの目が小さくなればなるほど細かい粉が出来上がります。イタリアでは挽きが細かい順に00、0、1、2、全粒紛と5つのタイプに分けられ、それぞれ用途に応じて使われています。しかしイタリアと日本では粉に対する基準が根本的に違い、簡単に強力粉はどのタイプ、薄力粉は…と比べるわけにはいきません。グルテンの含有量から比較してみると、一番細かい00タイプが日本の薄力粉から中力粉となり、それ以上コシを強くしたい場合は硬質小麦の二度挽きを足すことになります。生パスタを作る場合は、00タイプを使うのが一般的でコシが強すぎると“ゴムのようだ”といって嫌い、日本人がうどんに求めるものとは違いがあるようです。
 さて、その粉を見るために私たちが訪れたのは南ピエモンテにある製粉所です。その特徴は石臼を使って粉を挽いていること。早速内部に入ってみると臼の周りは危険なので、木で囲ってありますが、隙間からすごい勢いで臼が回っているのが見えます。上から粒小麦がサラサラ落ちて、容器が空っぽになるとチンチンチンと鐘がなり、知らせる仕組みになっています。
 なんだか原始的な、それでいて良い物が出来そうな―はじめて見た景色に皆はどんなコメントを言って良いやら迷っているようです。
 表に出ると石臼の目立てをする道具と石がおいてあります。石の刻み方によって粉の質が微妙に変わってくるとか―この仕事は熟練したおじいちゃんのものです。その腕の確かさをだれもが尊敬しています。おじいちゃんの名前はフェリーチェ、息子さんの名前がフェルディナンドとフラウヴィオ、孫がファウスト、フルヴィオ、フェデリコ―みんなFから始まります。
 “F”は粉-FARINA-の“F”。家族全員が粉にかかわり、粉に生きている証でしょうか。
 粉とイタリア料理は古代からのお付き合いがあります。それだけに同じ小麦が挽き方によって美味しくもまずくもなるという事も知られています。ただ生産量の少ない石臼挽きの粉が流通に乗らないのも確か。イタリア食材に興味を持つひとたちは、将来どうやってこれを手に入れようかと、とりあえずこの製粉所“ムリーノ・マリーノ”のラベルを胸のポケットに入れたようです。

HOME

 


ict食文化企画有限会社
E-mail:apicio@ict-ict.com