研修生の現地報告
第5回 岸本知之さんの「ヴェネト州バッサーノ」


La credenza (ラ クレデンツァ=ピエモンテの二つ星リストランテ) でのステージも何とか無事に終わり、現在、バッサーノ・デル・グラッパのホテル&リストランテ・ベルヴェデーレにいます。ずっと、リグーリアに行こうと思ってFICTイタリア料理長期研修 (以下FICT) に参加していたのですが、休暇でバッサーノに来て、ひょんなきっかけから、今ここに居ます。

そのきっかけは。。。ビーゴリ!

まず、僕はパスタが好きで、生パスタを色々知りたくてFICTに参加していました。ドモドッソラである日、同じく研修生の長谷川君からビーゴリ・イン・サルサを日本のリストランテで食べ、感動してイタリアに来たというのを聞き、そんな感動的な生パスタならばぜひ食べねば!と思いヴァカンツァで、このバッサーノに行きました。

実は、バッサーノ・デル・グラッパを訪ねるのは初めてではなく、4年前のクリスマス時期に一人旅したとき、これもある旅人から話を聞いて訪れたことがありました。このときはビゴーリの存在も知らず、ただ、雰囲気のある癒される街、好きな街のひとつとして歩いたものです。
今回のバッサーノ訪問は、ビーゴリという目的をもって、訪ねました。
バッサーノに到着した日、目当てのトラットリアは休日では無いはずなのにお休み!仕方ないので、僕のバイブルである地球の歩き方に載っていた、今お世話になっているベルヴェデーレ (belvedere) に来たわけです。しかし、ビーゴリ・イン・サルサは無く、代わりに鴨のラグー和えビーゴリがありました。これが方向転換を決定付ける出会いでした。

バッサーノ・デル・グラッパの観光の一番の目玉にポンテ・コペルト (コペルト橋) があります。橋の真ん中から上流に向かって立つと、モンテ、グラッパがとてもきれいに見える、僕の大好きな場所です。橋の入口には立ち飲みの雰囲気のあるバールがあり、リキュールやグラッパを飲んでおしゃべりする人で賑わいます。
この川の水が本当に綺麗で透き通っていて、そこには、群れで、鴨が群れで飛来し、遊んだり、羽を休めたりしています。始めて来た時から、この光景がとても印象的で、写真を何枚もとったのを覚えています。
その、鴨がラグーソースになって、この土地の素朴で無骨なパスタ、ビーゴリと合わさった、正に、バッサーノデルグラッパを代表するような料理だといえます。

また、ベルヴェデーレでブォンリコルドのお皿がもらえる郷土料理、ファラオーナ・クアットロ・スタジオーネ!これまた感動してしまいました。
ちょうどポルチーニの出始めの季節で、フレッシュポルチーニのソテーがふんだんに乗って、さらにホロホロ鳥の中にも詰め物としてたっぷり入っていて、生の本場のポルチーニを初めて食べ、その美味しさに感動しました。
素材そのものの、まるのまんまの味がしました。ポルチーニの香りや、ポルチーニのもつ甘味も存分に感じられるくらい、大きく切ったポルチーニがごろごろ皿に乗っていました。

食べ終わった後で、つたないイタリア語で必死に感動をカメリエ‐レの責任者みたいな人に伝え、料理を勉強しに来ていることを話していると、その人がじゃあ明日からでも!という感じで「ウチで働いたら」と言ってくれました。
このときはまだ、リグーリアに行くことを考えていたのですぐには返事をしませんでした。
それから、ずっと考えた結果、もともと、リグーリアにいくつもりで来ていたのですが、これも何かの縁だと思い、というか勝手に思い込み今に至るわけです。
そして、今では、働きながらどんどんヴェネトの料理が好きになっています。
ベルヴェデーレはバッサーノデルグラッパに古くからある家族経営のリストランテ&ホテルです。田舎の老舗ホテルといった感じで、設備は新しくはありませんが、アンティークな感じで、なかなか味のあるホテルです。ちょうどドモドッソラのホテル、エウロッソラを少し大きくしたような感じです。

リストランテ&ホテル ベルヴェデーレ

リストランテで働いているコックは僕を含めて現在5人です。まず、10年以上ここのシェフを勤めているジョルジョ (40歳)、セコンドのルイージー (39歳)、プリモのシモーネ (44歳)、アンティパストのミケーレ (29歳) です。シェフ以外はみんなここに来て1年半くらいとのこと。今、僕は決まった一つのポジションにいるわけではなく、4人から仕事をもらってます。今回は前回の反省を踏まえあらかじめシェフにパスタを勉強しにイタリアに来たことを伝えました。4人ともとても親しみやすい人柄で、まさにシンパティコです。お店はそれほど忙しくは無く、仕事に余裕があります。大きいバンケットが月に何回か入るので、その準備が忙しいくらいです。

レストランの料理は常にある郷土料理、シェフの創造料理、もちろんホテルなので他にも色々な経験をしています。
僕の最初の日の仕事はなんと、ビュッフェのための巻き寿司でした。さらに今のメニューには天ぷらもありますというと、誤解されるかもしれませんが。。。
でも、ちなみにこれが、かなり出るんです!串打ちした海老に、ジュリエンヌに細く長く切った人参、ズッキーニ、セロリアックを下茹でしたものを巻きつけ、衣を着け揚げて、生姜のピクルスのサルサを添えて出してます。

シェフはメニュー作りとドルチェを担当。本当に料理のことたくさん知っている博学で色々教えてくれる教授のような存在で、生パスタ (ビーゴリ、トルテッリ) 作りを教えてくれます。パスタソースを作るときは、僕を横につかせてくれます。もちろん、アンティ、プリモ、セコンド、ドルチェと全て教えてくれます。
シェフは天ぷらの衣にちゃんと氷をいれ冷やした物でサクサクした油切れのいい、日本人の僕が食べてもウマイと思うような天ぷらを作るんです。実はラ・クレデンツァ (credenza) でも天ぷらがありました。衣は日本のものとは違い膨れ上がる生地のフリットでしたが、衣を着けてあげたものを天ぷらと呼んで和風な器や形で出すのが、こちらの創造料理の流行なんでしょうか??

ベルヴェデーレの創造料理はこんな言い方をするとジョルジョに失礼で申し訳ないのですが、盛り付けなどは、ラ・クレデンツァと比べると一皿のボリュームがしっかりあり、少し田舎っぽいというか、素朴な感じです。そういう雰囲気が僕は好きです。
材料や味の組み合わせ方とか、土地の食材を美味しく食べるためのイタリア料理の技法が勉強になります。マネしようと思うことがたくさんあります。
また、リストランテのメニューとは異なる郷土料理が多くオンメニューする、バンケットや色々な土地の料理を作る「賄い」も勉強になります。
仕事は全体的に豪快です。特に、シモーネはかなり荒っぽいというか、素雑というか、盛り付けとかも、とにかくすごいです。が、でも、シモーネが作ったプリモは、おっかさん (manma) の料理のようにホッとする、おいしいプリモです。彼はプリモや魚介に詳しいらしく色々教えてくれます。体型を見ても分かるとおり、食べることが大好きな気の良い面白いオッちゃんです。
ルイージーは仕事がキレイで技術があり、速く適確です。本当に色々教えてくれますし、仕事も色々ふってくれます。やさしい兄貴みたいな感じです。
このように、シェフ、シモーネ、ルイージと3人がかりで、僕に仕事を教えてくれます。
ベルヴェデーレは基本シェフが料理のお題を考えますが、3人が意見を出し合って料理を作り上げてます。普段のコミュニケーションが良く取れていて仲が良いです。
イタリア人は本当に一人一人の個性が強く、上下間の風通しがいいというのか、何でも思ったことをはっきり主張しますね。それで口論になることもあるけれど、納得するまで話してその後、後腐れがなくさっぱりしているところが、いいと思います。見習いたいです。
一人で考えるよりも、他の意見が入って、うまくまとまると、より良いものができると思います。

これからの目標!

ビーゴリ・アーナトラとバッカラ・ヴィチェンティーナを中心としたビーゴリ、バッカラ料理は日本へ持って帰り、僕の得意メニューにしたいと思います。そのために、そして、舌の記憶をもとに自分のものにするために、バッサーノはもちろん、ヴェネトの色々な店でビーゴリ・アーナトラとバッカラ・ヴィチェンティーナを食べています。
イタリアに居れるのも後5ヶ月。
バッサーノ・デル・グラッパはメチャクチャ寒いですが、その分ヴィンブリュレ (ホットワイン) が美味しいし、リキュールやグラッパもたくさんあり、それを飲めるバールもたくさんあり、(こちらの人は寒くてもコートを着たまま外でワインを飲んでます・・・)
美味しいヴィーノ (Vino/ワイン) もたくさんあります。
都合のいいことに飲んでも外に出ると寒いので、すぐ酔いがさめます。
これから春のホワイトアスパラも楽しみです。
僕は野菜の中でこちらの人参、セロリがとても美味しく感じます。水分が少なく小ぶりで、硬く、香り高く、火を通しても型崩れしにくいので、加熱調理にも向いています。日本の人参、セロリはイタリアのものと比べると水っぽく、加熱に弱く、甘い感じがします。甘ったるいというか、甘さ以外のうまみや良い香りが少ないような気がします。
料理以外に生の人参、セロリもしっかりたくさん食べて、ワインやグラッパもいろいろ飲んで、気持ちの良い山の空気をいっぱい吸って
イタリアを楽しんで、日本に帰りたいと思います。


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