FICT-baseイタリア料理基本研修
FICT-base体験記


山内 千夏(base第1期生)

 1999年6月。梅雨のうっとおしい空気の日本から逃れてやってきたピエモンテ州ドモドッソラ。目の前に広がるアルプスの山々の美しさや爽やかな空気に、これから始まる毎日に自然と期待が盛り上がる・・それが初日の印象でした。大学在学中から食を学び、将来は食べ物のことを何か仕事にしていきたいと願って食品メーカーに就職した私は、気がつけば8年余の日々をそこで過ごしていました。会社での毎日は日々充実したものでありながら、企業という大きな組織の中での自分の居場所を徐々に見出せなくなってきていました。何をしたらよいのか、迷いさまよいながら夜間料理学校に通い調理師免許を取ったり、当時のブームだったフードコーディネータースクールに通ったりして抜け道を探し続けていました。その当時の私は、資格さえとれば何か道が開けるのでは・・と考えていたのですが、とった資格は使われてなんぼ。また別の問題なのです。ようやくそれに気がついた私は、将来料理を自分の仕事としていくことを目標とし、そのために今できることをやっておきたいと考えるようになりました。
 そのひとつが料理留学でした。時間とお金がなければ留学なんて叶いません。最初はフランス料理の留学を考えていたのですが、旅行で訪れたイタリアの料理と空気に気持が一変。退社を念頭に置きながら留学先を考えているときにひとつの記事に出会いました。それは、料理専門誌にのっていた豚の解体の記事。家畜として大切に育てられた豚が、ひとつとして余すとこなく食材として変化をしていく過程をレポートされたものでした。生き物が食材に変わる瞬間です。衝撃を受けながらも、料理というのはキレイごとではない、こんなテーマがおりこまれている機関で勉強することができたら、いろいろな発見や出会いがあるのではないか、と考えました。ただ、豚の解体を実体験している研修はプロの料理人のために開かれているものだ、とその記事に記されているのを見てガックリしたのですが、よくよく読むと『プロとしての経験がない愛好家向けの研修を来夏企画中』と書いてあるではありませんか。これも何かの縁、と思い、即ict食文化企画に問い合わせをし、その研修FICT-baseに参加させていただくことになりました。
 栄えあるFict-base第1期生は全部で15人。実際に研修に参加してみると調理経験がない人は少数派で、ほとんどがプロとして経験をもつ人でした。一瞬の不安を感じたのもつかの間、様々な経歴をもち様々な目標をもっているのだから、とすぐにみんな打ち解けることができました。
 研修のメインはドモドッソラの料理学校での授業、後半一週間は食材をめぐる旅という内容でした。ドモドッソラでは土日を除く週5日に調理実習はもちろん、イタリア料理概論、チーズやサラミ、オリーブオイルなどのイタリア食材の授業、そしてイタリア語の授業がありました。教室の窓から吹き込む午後の風はとても爽やかで、眠気と戦いながら(それでも食材の試食があるときはパっと目を覚ますずうずうしさ)毎日を過ごしていました。中でも一番想い出に残っているのは、調理実習の授業とその準備。実習は5人1組で行われ、作ったものはその日の皆の昼食となるため、失敗は許されない。しかもまわりにはプロ経験がある人がうようよ。という緊張感の中で、大きな歯車のひとつではない、自分一人の責任の重さをひしひしと感じる時間となりました。また、実習のリチェッタ(レシピ)はイタリア語のものしか配られません(授業中には通訳がつきますが)。そのため実習のグループのメンバーで集まり、『予習』と題して夜な夜なビール片手に辞書を引きながら訳すのが日課となりました。また昼休みに近くを散歩したり、週末にはたつメルカート(市)で食材を物色したり、とイタリアにいなければ出会えないものに直接触れることができたのも、とてもよい経験となりました。
 研修終了後は、希望してアグリツーリヅモでの料理研修に参加しました。フリウリ-ヴェネツィア-ジューリアとトスカーナ2ケ所に滞在しましたが、大自然のなかで『そこにあるものを調理する』という研修中にイタリア料理概論の授業で学んだことを実際に見ることができ、とても充実した時間を過ごすことができました。
 帰国後は、料理学校に勤務したり外食産業でのメニュー開発に携わりながら、como料理講習会をスタート。長本さんのお力添えのもと、イタリア料理の根本は各地のマンマの料理にある、という概念の元に、日本の家庭でも簡単にできるイタリア料理をご紹介する講習会を開催しています。研修に参加して奥深いイタリア料理の世界の扉をちょっとだけ開くことができました。まだまだ学ぶことがたくさんありますが、今後はイタリア料理の世界を自分なりに探りながら、家庭で楽しんでいただける素朴なイタリア料理を多くの皆様にご紹介していければいいな、と考えています。

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