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「イタリア妊婦の食べ物事情」
フードライター 宮本さやか
私は今、予定日まであと2週間を切り、いつ生まれても不思議のない、ピチピチ(腹の皮が)の妊婦を、北イタリアのトリノでやっている。 妊娠が発覚した当初は、だんなや愛猫をかなりの期間ほっぽり出しても、日本で産もう、と思っていた。だってこんな言葉や習慣の違う国で、人生最大の仕事をするなんて、とビビッテいたのである。ところが日本から取り寄せた妊娠ガイドブックのようなものを読んでいて、ふと気づいた。日本語でだって「ニンシンオソ」(妊娠悪阻)とか「サンジョク」(産褥)って言われても、何がなんだかさっぱりわからない。同じわからないなら、外国で産んだっていいじゃないか。せっかくイタリアに住んでいることだし、ここはイタリアの出産事情でもよーく観察して、原稿のネタにでもしてやろう、と浅ましいことを考えついたのだった。 イタリア妊婦の間で、まことしやかに言い伝えられていることの一つに、「妊婦は足を組むべからず」というのがある。足を組んで座ると、へその緒が絡まって赤ちゃんの首が絞まったりして危険、というのだ。何人ものイタリア妊婦経験者たちから、何度「ほら、また足組んでる!」と叱られたことか。だったら反対側の足も同じ回数だけ組めば、へその緒の絡みは取れるんじゃないの? と喉まで出かかったけど、ぐっとこらえて足を下ろす私。逆らってしまっては、本当に教えて欲しい妊娠情報まで聞き出せなくなるからだ。 私は、妊娠初期にはいわゆるつわりはなかったのに、後期に入っていつも胸やけがして気持ち悪い、という状況だった。そんな時に「ビールは母乳の出をよくするからたくさん飲め」といろんな人から言われたのには参った。日本だったらアルコール類はご法度(たてまえか?)だろうに。ははん、こういうふうにして簡単には酔わない体質を、胎児のうちから形成するんだなあ、と感心したりして。これは私も、迷信だろうがなんだろうが取り入れたい。産まれてお腹がすっきりし次第、冷え冷えのビールをグイッと、実行に移そう。 「バルベラとタリオリーニをたくさん食べると、母乳の味がよくなって子供が大きく育つ」という、銘柄指定の言い伝えもある。これはピエモンテ州自慢のお手軽でおいしいワイン、バルベラと、タリオリーニという手打ちパスタを食べろ、というもの。日本でも牡蠣を食べると目のきれいな子が生まれるとか言うらしいが、世界どこへ行ってもいろいろ言い訳をしておいしいものを食べようとするのは同じらしい。パルマの人なら生ハムとパルミジャーノチーズをたらふく食え、というんだろうか? いつか聞いてみたい。 生ハムといえば、トキソプラズマを防ぐために、「生ハム、サラミ類は一切食べちゃいけません」と産科の先生から言いわたされたのは辛かった。トキソプラズマというのは、日本でも猫から妊婦にうつると言われているもので、大人には何も影響を及ぼさないが、胎児にだけ奇形や流産の危険を与えるものだそうだ。イタリアでは生の肉にもトキソプラズマ菌がある可能性があるので、妊婦には危険な食べ物だと避けるのはわかるけれど、イタリアに暮らしながら、しかもこんなに食いしん坊、しかも食べることが半分仕事、なのに生ハムがダメ? とろけるようにおいしい生肉のサラミを我慢しろ? 日本じゃ刺身食うなとは言わないよなあ、と疑いつつも、一応言いつけは守ってみる弱気な私。でも、ちっとぐらい平気だよね、と食べちゃっとことも何度か、実はあるんだけれど。幸いなことに、最後の血液検査でも、トキソプラズマ菌は採取されなかった。 生ハム解禁の日は近い。 |
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