番外 ジーロ イル ノルドゥ イタ〜リア Giro il Nord Italia その4

 8月22日、旅の最終目的地のフリウリに到着。ここも、たくさん優良生産者がある中で、厳選のカンティーナをまわった。DOCでは、イソンツォ(Isonzo)・コッリ オリエンターリ デル フリウリ(Colli Orientali del Friuli=COF)・コッリオ(Collio)の3地域が銘醸ワインを生んでいる。しかし、3地域を含んだ端から端まで車で1時間ほどの範囲に優良生産者はかたまっているので、移動はとても簡単だ。どこも、カベルネ・メルロー・ソーヴィニョン・シャルドネなど外来品種の栽培が中心だが、すでに100年以上の歴史があり地域に根付いている。その他にこの地域だけのブドウが、白ブドウではピコリット(Picolit)・ヴェルドゥッツォ(Verduzzo)・トカイ(Tocai)など、黒ブドウではピニョーロ(Pignolo)・スキオペッティーノ(Schiopettino)・タッツェレンゲ(Tazzelenghe)など、生産量は少ないものの独特の素晴らしいワインがこれらのブドウから生まれている。
 
 まずは午前中、「ヴィエ ディ ロマンス(Vie di Romans)」。イソンツォ地区で1・2位を争う、素晴らしい白ワインを造る。着いたとたんに少し不思議な畑の風景があった。畑があるのは全くの平地。フォラドーリと同じだ。一般的にブドウ畑は山の斜面の方が太陽光線を効率的に受けることが出来、素晴らしいワインを生むという理論はここには通用しないのか。
 
 カンティーナは街のはずれ、ロマンス街道“Vie di Romans”という道沿いにある。おしゃれな名前に負けないくらい、きれいな造りのカンティーナ。挨拶が終わるとすぐに2階の小さな部屋に連れて行ってもらった。そこからはこのあたり一帯を眺めることが出来る。やっぱり近くに丘や山は見当たらない。早速平地でブドウを栽培する理由を聞いてみた。答えは、このあたりはイソンツォ川の流域にあたり、土壌は川が運んできた石や砂が中心になる。また、ミネラルを多く含んだ土壌でブドウ造りには最適のところだとのこと。そうはっきりと答えてもらった。丘があるかどうかというのはここでは問題ない。自信に満ちた答えで安心した。カンティーナで気付いたことは、瓶詰めされダンボールに入れられたワインが大量にあること。特に瓶熟成に気を使っていて、十分な期間をおいて出荷される。また、横置きに置かれている瓶を90度回転させるように、ダンボール全体を動かすと言っていた。それによってワインがより安定するとのこと(を言っていたと思う・・・)。
 試飲したのは白ばかり、まずは「イソンツォ シャルドネ ヴィエ ディ ロマンス 2000」、畑名がまさにカンティーナの名前。とても凝縮した果実の印象が強く、ミネラル分が多く、樽熟からのバニラ香や複雑さがある。「イソンツォ フロール ディ ウィス(Flor di Uis) 2000」、マルヴァジアを中心にトカイなどのブレンド。アンズジャムの香りが強く、やはりミネラルを多く感じ酸味が心地よい。とても面白いワイン。「イソンツォ ピノグリジョ デッシミス(Dessimis) 2000」、僕の意見ではイタリアで一番のピノグリージョ。まだ樽香が強いものの、青リンゴの香り、エレガントで繊細さも持っている。ミネラル・しっかりした酸・凝縮感とも文句なし。それほど個性の強くないこの品種を、これだけのワインにしているのは素晴らしい。「イソンツォ ソーヴィニョン ピエレ(Piere) 2000」、とても強い香りでソーヴィニョンらしいトマトの葉のような香りが強い。それほど複雑さはないものの、純粋でスッキリした酸を持っている。「イソンツォ ソーヴィニョン ヴィエリス(Vieris) 2000」は、樽熟したタイプ。デッシミスも大好きだけど、これも一気にファンになった。味わいも香りもしっかりしたアタックで、いつまでも続いていそうな余韻。ミネラル分がやはり多く、香りにも感じる。バランスが取れていて今飲んでも十分このワインを楽しめるし、もう少し寝かしてももっと複雑さが出ると思う。
 
 午後は、「レ ヴィニェ ディ ザモ(Le Vigne di Zamo')」を予約していた。一転ここ、コッリ オリエンターリ デル フリウリ(COF)地域は、小さな丘がいくつも重なり合う地域。マンツァーノ(Manzano)という街のはずれにあるのだが、この地域、車で15分の範囲に素晴らしい生産者がいくつもある。見れば日当たりがよく、なだらかな斜面にブドウ畑が広がっている。その一つの丘の頂上に見た目も新しいカンティーナがあった。カンティーナの下の斜面にブドウ畑が広がっている。到着すると慌ただしく収穫に向けた準備が行われていた。この不順な天候のおかげで、どこも収穫が早まっているようだ。カンティーナの中もまだ新品のようなステンレスタンクをはじめ、新しい醸造設備が整っていた。ピコリットの発酵はどうやら伝統的な造り方。小さなバリックにはロウ封がされていて、まるでアヴィニョネジのヴィンサントのようだった。
 本来は休日中にもかかわらず、試飲にも付き合ってもらった。まずは「COF ピノグリージョ 2001」、柿のような香りがして、リンゴのようなフレッシュフルーツの香りもある。今すぐ飲んで楽しめるタイプ。次は「COF トゥリオ ザモ(Tullio Zamo') 2000」、ピノビアンコ100%をバリック熟成したもの。まずはバニラの香りがして、その他にメロンや黄色の桃の香りがする。ミネラル分に富んでいて、若干のタンニンを感じた。バランスのよい1本。赤ワインは、「COF ロンコ デイ ロゼーティ(Ronco dei Roseti) 99」、カベルネソーヴィニョン・メルロ・カベルネフランのブレンド。とても濃い赤紫色をしていて、紫色がまだ感じられる。森のフルーツやピーマンの香り、シナモン、とても複雑な香り。味わいもしっかりしていてまだまだ若い。5年は少なくとも待ちたいと思った。そのあとは、「COF スキオペッティーノ 95」のマグナムを開けてもらった。マグナムなのでちょっと遠慮したが、どうやらマグナムしかないよう。しかも95年。すでに熟成した香りがあり、優しくなっている。スパイスの香りが多く、ピンクペッパーやピーマンの香りがある。とても個性的な赤ワイン。少し癖のある料理とあわせてみたい。
 カンティーナのすぐそばの畑には、ピニョーロが植えられていた。房が小さく、実のつき方がまばら。造っていてあまり利益のあがる品種じゃないかと勝手に思った。でも、こういう品種を大事に育てているということが、とても素晴らしい。いつまでもこの姿勢を忘れないで欲しいと思う。
 
 8月23日、午前中は「ジローラモ ドーリゴ(Girolamo Dorigo)」を訪問。ここもCOF地区にある。予定の10時よりもだいぶ早く着いてしまい、カンティーナの周りの畑をウロウロしていると、向こうからけたたましい音がしてきた。何年使っているのか分からないほど古いトラクターに、大量のプラスチックの箱が載せられている。聞いてみるとやはり収穫がすぐに始まるため準備に忙しいとのこと。どこも、予定を早めて収穫するようだ。
 さて、ここではカンティーナの説明はほどほどに、早速試飲になった。試飲ではここで生産されているワインのほとんどを飲むことが出来た。ありがたい限り。全体の印象では、畑名の入ったものやバリック熟成させたプレミアムのワインが本当に素晴らしいということ。全部は書ききれないので印象に残ったものを書くとしよう。白は、安いタイプの「COF リボッラ ジャッラ 2001」、バランスが取れていて全てがまとまっている。アペリティーヴォや前菜とあわせたいと思う。目から鱗だったのが、「COF ロンク ディ ユリ(Ronc di Juri) ソーヴィニョン 2000」、100%新樽で熟成された最高のソーヴィニョン。飲んでいてしばらく言葉がなかった。こんなに素晴らしいソーヴィニョンがあったんだ!!コメントはしません。素晴らしい!同じ名前の「COF ロンク ディ ユリ シャルドネ 99」、これも新樽で仕上げられている。こちらも素晴らしいが、ソーヴィニョンの前では若干霞んでしまったか。でも、これまた最高の白。乾燥イチジクやパイナップル、熟したリンゴの香り、がとても強く持続性もある。味わいもバランスが取れていて、今飲んでも5年後にもとっても素晴らしくなっているに違いない。赤では、なんと言っても「COF モントスクラパデ(Montsclapade) 99」、カベルネソーヴィニョン・メルロ・カベルネフランのブレンド。とても濃い色のルビー色で、ねっとりとした印象。香りも強くまた複雑。味わいは・・・、とにかく一度試してもらいたいが、日本で手に入るのかどうか・・・。本当に素晴らしい。他には「COF タッツェレンゲ ディ ブットリオ(Tazzelenghe di Buttrio) 98」、ブットリオはこの街の名前。タンニンが強く酸味も多い。青っぽい香りが多く、またイチゴや枯れ葉の匂いがする。とても興味の湧くワインだ。あとはデザート。「COF ヴェルドゥッツォ フリウラーノ 99」、黄金色をしていてグラスにまとわりつくような粘着性。今まで飲んでいたヴェルドゥッツォの印象を一気に変えた。美味い!酸味がしっかりしていて、甘さが口に残らない。しかし、このワインなんと16.5%もアルコールがある。そしてとうとう、このときがやって来た。ピコリット!「ピコリット パッシート(Picolit Passito) 2000」、上質のソーテルヌに近いエレガントさ。一瞬シャトーディケムが頭をよぎった。もっともっと凝縮しているものと勘違いしていたが、実はそれよりも繊細さが売りのワイン。香りも強いというよりはいつまでもいろいろな香りが漂っている感じ。
 
 ごちそうさまでした!
 
 午後は、「スキオペット(Schiopetto)」。ここはゴリツィアの街に近い、コッリオの生産地域だ。このスキオペット、このあたりのカンティーナからは、一目を置かれたいる存在のようだ。どこのカンティーナでも、「他にどこのに行くの?」と聞かれ、ここの名前を出すと、「それは素晴らしい。絶対に行きなさい。」と言われた。というのも、マリオ・スキオペット氏は、この地域のワイン造りでは、新しい流れを作った先駆者的な存在。ガヤとも並べられるほど尊敬を集める人物のよう。フランスなどでワイン造りを学び、その技術をイタリアに持ち込みフリウリ地域の技術的発展、ワインの品質向上に大きな貢献をしたようだ。今では少し体が悪く、実際には合えなかったが、娘夫妻にカンティーナを案内してもらった。彼女からは、きっと父親から大きな影響を受けただろう、体中に満たされたエネルギーを感じた。真剣に・熱心に・情熱的に、目を合わせていると思わず背けてしまうほど強い視線を向けて話してくれた。
 こちらもカンティーナを新しくしていた。新しいテイスティングルーム、機能的な醸造設備、バリック庫など、いろいろなアイディアが詰まった使い勝手のよさそうなところ思った。そして何とここでは収穫が始まっていた。ちょうどピノグリージョをプレスにかけて、果汁がタンクに貯められたばかりだった。一晩くらいこのまま寝かせて不純物を沈殿・除去してから発酵が始まる。と、横には果汁を取り除かれたブドウの皮と茎がプラスチックのケースにたまっていた。ピノグリージョを見るのが初めてで、思わず黒ブドウだと思ってしまった。「なんで黒ブドウをいきなり搾ってるの?」って聞くと、「違う違うこれはピノグリージョだって。」言われてしまった。旅の恥はかき捨て・・・。
 試飲は、なんとトカイフリウラーノ1本だけ。普通ならもうちょっと飲ませて〜、とお願いするところだろうが、ここではもう彼女の話で満腹気分。醸造設備・バリックの使い方などを説明するかたわら、今のワイン業界の問題・イタリアワインのあり方・リストランテでの仕事のことなど、本当に熱心に語ってくれ、そしてこちらもそれに答えられるだけ答えた。さらには日本とのかかわりの話や、僕らのプライベートなことまで話ははずんだ。このまま話が終わらないんじゃないかと思うほど・・・。
 
 このあたりのカンティーナから尊敬を集めているということは、よく理解できた。熱い眼差し、熱心なワインへの取り組み、説得力のある言葉。それはきっとマリオ氏から始まった流れなんじゃないかと思う。それを風化させず、さらに進化させていく姿勢も感じた。そして何よりも、実際に造られるワインが素晴らしい品質なのも、フリウリのリーダーとして引っ張っていくのに値すると思う。そんなこと僕がいわなくてもいいですけどね。
 
 さてさて、大詰めの24日。「ロンコ デル ニェミス(Ronco del Gnemiz)」ただ1つを訪問して終了。正直言って結構疲れた。約2週間、神経を張りつめてやってきてとうとう最後の日。充実感と満足感が勝るものの、疲労感もかなりだ。このスケジュール、完璧だったと思うのは、明日の最終日にヴェネツィアに行くようにしていたことだ。最後までしっかり楽しめるのと、いい気分転換になるんじゃないかと思う。
 ここで一番驚いたのは、ブドウの房。ピノグリージョ・シャルドネなどはあまり他の産地と変わらないが、ここのカベルネ、相当変だ。房についている実がまばらで、はっきり言ってみすぼらしい房。この辺りじゃこれが普通なんだそう。ひとつの木につける房の数は普通と一緒だから、そりゃ凝縮するはずだ。収穫量は絶対に少ないはず。でも、その品質の高さは・・・、想像できるでしょ。
 
 試飲は、朝早くから作業をしているのを中断して付き合ってもらった。まずは、「COF トカイ フリウラーノ(Tocai Friulano) 2000」、軽やかであっさりした魚料理にはうってつけのワイン。この地域の風景が目に浮かんできそう。そのあとは、「COF シャルドネ 2000」、まだラベルの貼られていない、瓶熟成中のもの。とんでもない凝縮感と美しい酸味、なんと言ってもたっぷりのミネラル。このミネラル分の多さがフリウリのワインの最大の特徴だと思う。誤解を恐れずに言えば、最上のシャブリ・ピュリニーモンラッシェのグランクリュに匹敵する品質だと思う(だいぶ個性は違うけど・・・)。最後には「COF ロッソ デル ニェミス(Rosso del Gnemiz) 99」、上に書いたカベルネとメルローのブレンドだ。これもまた素晴らしい凝縮感、しっかり熟成したブドウだけを使ったと分かる果実味・熟したタンニン、丁子などのスパイス、カシス、バニラ、・・・。素晴らしいの一言。今のところフリウリは白ワインという意識が強いと思う。おそらく5年後には変わるんじゃないかと確信する1本だった。フリウリの赤はもっと見直されるべきだ。
 さて、気持ちよく終了。たっぷりの疲労感はフリウリに残して、ヴェネツィアに向かおう!
 
 最近のワイン事情でよく語られるのは、「ワインはカンティーナの中ではなく、畑で造るものである」ということだ。樽の使い方・醸造方法をどうするかより、素晴らしいブドウをどうやって造るのかということ、畑でどれだけ良い仕事をするかに重点が置かれている。いろいろなカンティーナをまわってみて、やっぱり同じ事を何度も聞いた。収量制限・自然農法・ブドウの木の密植・・・。しかし、これだけでは少し足りない気がしてきた。
 今回の旅で不意に目からしずくがたれそうになったことが幾度かある。マスカレッロ・ジーニ・スキオペット・・・。老舗のカンティーナが多いが、ワインの醸造方法やバリックの使い方を説明する以上に、ワインへの愛情・情熱を、一点を見つめる曇りのない目で熱心に語ってくれたとき、思わず目が潤んだ(涙腺が弱くって)。ジーニ氏の言葉、「ワインを造るのに必要なのは、愛情なんだ。私はいつもいつも愛情を持ってワインに接しているんだ。美味しくワインを飲んでもらうには愛情が必要なんだ!」愛情・アモーレ・Amore、何度口にしたんだろう。本当にうれしかった。うれしかった以上の言葉が見つからない・・・。
 こういった“大きな”人を目の前にすると、自分がとても小さな存在に思える。まだまだしなきゃいけない事がたくさんあるなー、この人に追いつくにはどうしたらいいんだろうと思う。追いつくなんて大げさな。でも、どこまで歳をとってもこんな純粋な目を持っている人間になりたいと思う。こういう生産者がいて初めて僕らの手元に素晴らしいワインが届く。「素晴らしいワインは、愛情なしには出来ないのかもしれない・・・。」僕も彼らに負けない素直な情熱を持ってサーヴィスしなくちゃいけない。
 ワインを分析するのもソムリエの仕事。色・香り・味わい。それをお客さまに伝えるのも僕たちの仕事。料理との相性も考える。それと、出来ることならば造り手の情熱も表現できるソムリエになりたい。さらにその土地の風景、人の暮らし、畑の様子も。それが出来たら、そのワインを数倍美味しく飲んでもらえるんじゃないか。そんな気がする。
 「ソムリエ」って日本ではちょっと気取った言葉だと思う。でも、いつまでたってもワインは、自然の恵みを人が“魔法”をかけて魅惑的な液体に変化させた農産物。あまりにも原型を想像できないほどに。「ソムリエ」、僕にとってはもっと土臭く“人間臭い”言葉であって欲しいと思う旅だった。

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