番外 ジーロ イル ノルドゥ イタ〜リア Giro il Nord Italia その1

8月12日
 先日までのトスカーナめぐりの疲れを残しつつ、昨日の夕方、テルニを出発。一人だけの「北イタリア周遊」だ!電車の乗り換え時間があったので、フィレンツェに少しだけ立ち寄って散歩。あてもなくブラブラしている途中、超偶然にも日本人の友達にばったりと出会った!なんていう確立。彼女、旅行で来ていたんだって。こんなことってあるんだねーと話しながら、一緒にピザを食べた。その後は、また電車に乗り、ピサで夜行に乗り換えアスティーに向かった。あー、いつもながら夜行は寝られねー、っなんて思ながらウトウト・・・、おっ、ここはどこ?うっ、なんと終点のトリノに到着!あー寝過ごした。おー、これで3回目のトリノ。今回は来る予定じゃなかったのに・・・。何かの縁があるんだろうか。でも、ちょっと不吉な予感。
 何とか電車を乗り継ぎ、レンタカーを借りるアルバに到着。時間通りには着いたものの・・・、オフィスが開かない!20分・30分過ぎても。確かにこの不吉な予感、感じたそのもの。携帯電話のメモリーに幸運にも残っていたレンタカー屋のフリーダイヤルに電話すると、少し様子を見て欲しいとのこと。近くの人に助けを求め、色々してみたもののどうしようもない。もう一度フリーダイアルにかけると、どうやらクーネオのオフィスまで行かないといけない状況らしい・・・。そんなことをしているうちに時間はどんどん過ぎていた。あー、イタリアだよここは!!「ちゃんと予約したんだ!ふざけるな!!」と思ったものの、どうしようもない。思ったことを上手くしゃべれない。ふー、快晴の天気とは正反対、心の中ではどしゃぶりの雨が降り出した。あー、この口の上手い人種の人たちにこの会話力でどう立ち向かったらいいんだ!絶対ごまかされないぞと誓い、タクシーでクーネオに向かうことに。もちろんタクシー代は払ってもらう。待てよ、念のためクーネオの事務所に問い合わせてみよう。・・・どうやらフリーダイヤルの中央予約センターから話が上手く伝わっていないらしい。やっぱり!100ユーロ近くするタクシー代を自腹切らされたんじゃたまらない。ここはハッキリさせないと。
 ふー、何とか話をつけ、12時過ぎにクーネオに到着。9時に予約していたのが12時をまわってしまった。タクシー代はもちろん払ってもらうが、ここからアルバに帰る距離の分を割引してもらおうと交渉。すると、そんなことは絶対に出来ないと早口でまくしたてられた。タクシー代を払うことでさえ、こんなことは今までしたことがないんだと。まてよ、おい。おかしーだろ。よけいな時間を使わされたうえに、来たくないクーネオ(実際は山に囲まれた、とーーてもきれいな街。今度来よう)に来て、その上さらに負担しろっていうのか!それならと、またフリーダイヤルの中央予約センターと交渉。でも電話じゃとても難しすぎる。クーネオ事務所のオネーサンにヘルプを求め、両者の話し合いになった。何を話していたのかはよく分からないものの、どうやら1日分のレンタカー代を割り引いてくれることになった。ふー、一件落着。あーしんどい一日になっちゃった。
 皆さん。書いているほど簡単じゃなかったんですよ!ここが日本なら簡単に問題を解決できるのに(そもそもこんな事態にはならないか・・・)、慣れない言葉で話し合うって容易じゃない!タクシー代を払ってもらうことだけで、何回確認を取ったか・・・。無難にトリノでレンタカーしとけばよかった。
 
 今回のピエモンテでの宿泊地は、ロアッツォーロ(Loazzolo)という町。町というよりは集落。あ、ロアッツォーロってDOCがあるの知ってる人いますか?ほんと小さなDOCで、モスカートのパッシートを造ってるところ。ここにある「ボルゴ マラリアーノ(Borgo Maragliano)」というカンティーナを訪問し、すぐそばの宿を取った。このカンティーナでは、モスカートダスティー(Moscato d'Asti)を中心に、瓶内二次発酵のスプマンテやシャルドネの白ワインを造っている。とても斜面がきつい所に畑があり、ブドウの生育にはいいものの仕事はその分ハード。若い後継者のカルロと話していると、一緒に働く従業員を探すのにとても苦労しているとのこと。日本でも同じように、田舎の農業をやろうっていう人はここでも少ないらしい・・・。一番興味を持っていたのは、モスカートダスティーの実際の造り方。一時発酵の泡を損なわないようにし、また甘味を残す。さらに、瓶詰め後に再発酵しないようにするフィルターかけなど、スティルワインにはない技術を実物を見ながら説明してもらった。多くの場合は、上手く温度調節を行う。例えば、発酵を促進するときはモストを温め、瓶詰めするときはガスが逃げないようにマイナス2度くらいまで冷却する。そうして、あの爽やかな甘口が造られるのだと、ホントよく分かった。
 宿は、老夫妻の経営する質素な宿。当然か!安ーい宿をお願いします、って頼んだから。なんと、泊まっているのは僕一人。寂しい気もするが、ま、ゆったり過ごそう。それでは、おやすみなさい!

 8月13日、今日の最初の訪問は、「バルトロ マスカレッロ(Bartolo Mascarello)」だ。今回の旅で最も楽しみにしているカンティーナのひとつ。ところが、朝っぱらから大きく道を間違えとても約束の10時には着きそうもない。一応電話を入れたものの、着いたのは10:45くらい。話に聞いている限りでは、バルトロ氏は頑固者。約束に遅れるくらいなら帰ってくれとでも言われるんじゃないかと恐る恐るカンティーナに入った。全く正反対!奥さんが快く迎えてくれ、バルトロもホントに気持ちよく接してくれた。きちっとした正装で、僕のような小さな訪問者にも敬語で丁寧に接してくれる。日本でのイタリアワインの地位の低さや、最近のヴィンテージやもちろんバローロの伝統のことなどを質問すると、丁寧に答えてくれた。そして、やはりバリックの話にもなった。「私の造っているワインはカリフォルニアワインでもフランスワインでもない。私の造っているワインはバローロなんだ」と。あくまでも伝統的なつくりにこだわっていくという姿勢を肌で感じた。そう、「トラディツィオナーレ(tradizionale)」、“伝統的な”という言葉を何度も耳にした。最高のクリュの畑を持ちながらも、造っているワインはただのバローロ。いたるところにこだわりを感じる。
 
 試飲したのは、バローロ 98。まだエチケットを貼っていない、瓶詰めしたばかりのもの。それでも、この存在感。ブドウという果物の存在感を、これでもかと感じる。大切なのはやっぱり、カンティーナの中でどういう仕事をするのかよりも、畑の中でどういう仕事をするかだ。ブドウの出来が良いから美味しいワインが出来る。醸造はその後の話。
 さて、バルトロ氏、ひと言でいうならカリスマ。優しいしゃべり口調、丁寧な言葉、若干不自由な体(たぶん80歳近い?年齢)。でも、肌で感じる力強さはすごかった。この人が黒といえば、思わず黒と言ってしまいそう。そんな感じの人っているでしょ?ワイン造りに対するこだわり、これはやはり経験に裏付けされた自信。いつまでもこういうワインを造っていて欲しい。そんなお願いをしたかった・・・。
 皆さんはバリック派?伝統派?僕はバリックを否定しないし、どちらが優れているというものでもないと思う。それぞれに個性があっていいじゃない。気分によって飲み分けたり、もちろん料理との相性を考えたり、お客さんの好みに合わせたり・・・。ま、早い話、美味いものは美味い!
 
 次は、少し時間があったので、昨日カルロに紹介してもらっていた「ヴィニャ リオンダ(Vigna Rionda)」に電話し、急な訪問にもかかわらず、こちらもホントに快く迎えてくれた。バローロからは一山越えたセッラルンガダルバ(Serralunga d'Alba)という町の中心にある。こちらは3つのクリュを中心にバローロ・バルベーラ・ドルチェット・モスカートダスティーなどを造っている。ここの醸造の特徴は、バローロのクリュごとにバリックと大樽を使い分けていることだ。カンティーナの直ぐ下の斜面に当たる1つ目のクリュ、「ヴィニャ リオンダ」そうここの名前にもなっているこの畑は、伝統の大樽でじっくり熟成させて、全てリゼルヴァで販売。2つ目「パラファーダ (Parafada)」は全てバリックで熟成、3つ目「マルゲリーア(Margheria)」は大樽熟成と、バリックと大樽のキュヴェを混ぜることはない。その理由はクリュの個性に合わせた醸造方法を取っているのと、あとは市場の要請だとのこと。「アメリカ人はバリックで寝かせたパラファーダを買っていくし、好みに合わせるのも造り手の勤め」だと話していた。もうひとつの特徴は、発酵にはセメントタンクを使うこと。ステンレスのタンクもあるが出来るだけセメントを使っていくつもりだと。何故かと尋ねると、セメントには空気が含まれていて、外気の影響による温度変化が少なくてすむ。ステンレスは薄すぎて影響を受けやすいからとのこと。このことはとっても大事なんだと話していた。そして今の醸造業界の流行は、ステンレスからセメントに変わってきているらしい。昔の技術が見直されて、また、今の温度コントロールやルモンタージュの最新技術が加えられ、これから増えていくみたい。まるで服と一緒だねと話したら、その通り!といってくれた。
 
 さて、試飲は「バルベーラ ダルバ ジゼップ 99(Barbera d'Alba Gisep)」から。単一畑のバリック熟成したもの。正直にヴォエルツィオのバルベーラの雰囲気が一瞬頭をよぎった!もちろんそこまでの迫力はないが(値段で10倍近く違うんです)、素晴らしい凝縮感と熟した果実の風味、優しくエレガントな酸味といい素晴らしいワインだ!次は、普 のバローロ 98。美味しい果実の風味と柔らかな酸味、すでに飲み頃に近く5年後くらいがピークだろう。さて単一畑のバローロは、まず「マルゲリーア 98」、大樽で仕上げた伝統的なつくり。まだ、少し硬い感じがしたが熟したタンニンと、滑らかな下触りが特徴だ。「パラファーダ(Parafada) 98」は、すべてバリックで熟成させたタイプ。角が無く全ての人に受け入れられやすいつくりだ。最後に「ヴィニャ リオンダ リゼルヴァ 96」は、このカンティーナの下に広がるこのあたりでも特別な畑。ポテンシャルが高く、大樽でじっくり熟成されリゼルヴァで出荷される。まだまだ香りが閉じていて、最低5年は待って飲みたいワインだ。はっきりいってまだ本領を発揮していない。しかし、少し飲んだ95年はすでに香りが開いてきていて、森のフルーツやスパイス、焼き栗などの複雑な香り。エレガントでまた強い香りだ。
 ここの訪問で途中から一緒になったのが、スイス人の若い夫婦。とても爽やかなカップルなのだが、英語とイタリア語をしゃべるもののレベルは僕くらい。いろいろな言葉が混じりながら話が弾んだ。時にはじっくりと説明をしながら話し、時には冗談を言い合う。しかし!1つとっても悔しいことが起きた。彼ら車でここまで来たのだが、なんとワインをケース買いしていくではないか!「モスカートを12本・・・ん、や、24本!バローロを混ぜて12本、バルベーラを・・・・」。近いっていいよなーーー。だってバローロ20ユーロちょっとだよ!この美味いバルベーラなんて13ユーロ!!そりゃケースで買うよね。思わず、「俺も自分の車で来て、そのまま運転して日本に帰りたいよ!」って言っちゃった。苦笑いしてたよ、彼ら。
 
 夕方になって、「ファンティーノ コンテルノ(Fantino Conterno)」を訪問。一流生産者が集まるモンフォルテダルバの街のはずれ、町を見渡せる丘の上にある。ここは樽熟成をすべてバリックで行い、ほとんどが新樽だ。
 造りたての新しいカンティーナの中に入ると、エノロゴのグイドが待っていてくれた。いかにも農家の青年といった感じで、少し汚れが残る服を着ていた。まずはカンティーナの中を案内してもらった。ここには一つも大樽が無い。すべては見た目も新しいバリックだけ。醸造設備も新しいものが並び、最近のビックヴィンテージの連続で、投資が進んでいるようだ。
 試飲したのは、「ランゲ シャルドネ バスティア(Langhe Chardonney Bastia) 2000」、バリックの中で発酵が行われているため、木の香りは強いものの、それに負けない凝縮感と、なんといってもミネラルの多さが目立った。フレッシュな酸味もしっかりしていてバランスの取れたワインだ。次は、「ランゲ ロッソ モンプラ(Langhe Rosso Mompra) 2000」、ネッビオーロ・バルベーラ・カベルネのブレンド。とても調和が取れていて、今すぐ飲んでも十分に美味しく飲める。舌触りが滑らかで、ネッビオーロからは「上品さ」を、バルベーラからは「親しみやすさ」を受け継いだような感じ。最後は、ここの看板ワイン「バローロ ソリ ジネストラ(Sori Ginestra) 99」、素晴らしい凝縮感と十分に熟したタンニン、上品なスミレの香り・チョコレート・カラメル・・・。複雑な香りを持っているが、これだけ感じながらもまだまだ閉じている印象だった。それもそのはず、瓶詰めされたばかりのこの先1年近くはカンティーナでビン熟され出荷されるワインだ。
 
 今日の素直な感想。マスカレッロ・リオンダ・ファンティーノ、どれも個性的な造り手でそれぞれにいいところのあるカンティーナだ。しかし、共通して思ったこと。僕たちソムリエや、レストランのお客さん・一般の消費者、ワインを飲む人全ての人に言えると思う。畑で土だらけになって、カンティーナで樽と格闘して、分厚い手を真っ黒にしながら一生懸命働いている人がいて、はじめて僕たちは美味しいくワインを口に出来る。真摯な生産者を訪ねてみると、ワインを口にしていろいろ講釈をたれる前に、まずは感謝。ホントにありがとう。そう言いたい。どこに行ってもそんな気分になった。
 
 8月14日、今日も快晴の天気。晴れオトコ本領発揮!?先週までの悪天候はどこへ行ったのか!さてさて、午前中はホテルから程近い「ラ スピネッタ(La Spinetta)」を訪問。こちらも夏休み中で、残っているのは奥さん(かな?)と事務の人の2人だけ。少し恐縮しながら入っていったものの、「私、ワイン開けられないから自分でして、勝手に試飲していいよー」って。なんてラフな所なんだ! とりあえずは、カンティーナの中を見せてもらった。とても美しく造られたバリック庫が印象的だ。近代的な設備が揃い、カンティーナの好調さが伺える。
 
 試飲したのは、まず「バルベーラ ダルバ ヴィニェート ガッリーナ(Barbera d'Alba Vigneto Gallina) 2000」、きれいな赤紫色をしていて、香りは若いフルーツ、ラズベリーやイチゴの香りが強い。そのあとは「バルバレスコ ヴィニェート ヴァレイラーノ(Barbaresco Vigneto Valeirano) 99」、バニラ香がまずは鼻に入るが、そのあとにイチゴなどのフレッシュフルーツの香り、スミレの香りが続き、味わいはエレガント。優しくしっかりしたタンニンがある。そのあとに、モスカートのパッシート「オーロ(Oro) 99」を特別に飲ませていただいた。なぜ特別か?これはまだ市販されていません!もちろんイタリアでも。嫌味の無い甘さで、スッキリした酸が口の中をフレッシュにしてくれる。素晴らしいと思ったのは、どれも共通した特長で、エレガントさと純粋さがあることだ。例えばバルバレスコはしっかりとそのテロワールを感じることが出来、さらに上手にバリックを使ってワインに複雑さを与えている。力強いバローロに対して、繊細なバルバレスコということがよく分かった。今やガヤと肩を並べるほどの評価のこのカンティーナの実力がよく分かった。
 
 そのあとは、これまたカルロの友達の「ジュゼッペ コルテーゼ(Giuseppe Cortese)」を訪問。バルバレスコでも特に優れた畑のひとつ、ラバヤ(Rabaja)のすぐ上にカンティーナがある。すぐ隣には、ブルーノ・ロッカ(Bruno Rocca)があり、ガヤのあるバルバレスコの村から車で5分の、銘醸地の中心にあたる。
 カンティーナではちょうど今年の収穫に備えて、大樽の内側を削ってきれいにする作業をしていた。といってももう削る作業は終了し、最後の調整で各部品を組み合わせてそこからワインが漏れてこないようにする、細かい作業をしていた。こういう地道な作業も素晴らしいワインを造るためには必要なことだ。
 「ランゲ シャルドネ 2001」は、すべてステンレスタンクで発酵・熟成させたもので、フルーティーなワイン。「ランゲ シャルドネ スカプリン(Scaplin) 2000」は、6か月バリックで熟成されより滑らから舌触りで、バリックやトースト香が強い。バルベーラ ダルバも、ステンレスで熟成されたものとバリックで熟成されたものの2種類があり、どちらも10ユーロ以下のコストパフォーマンスに優れたものだ。さて、肝心の「バルバレスコ ラバヤ 98」はすべて大樽で熟成され、エレガントで繊細なタイプ。それにまして、見事な凝縮感と力強さ、バルバレスコという土地を感じることが出来た。このワインなんと、カンティーナの直販では20ユーロ弱、日本円で2000円くらいだろうか、で買うことが出来る。出来ることなら1ケース買って帰りたい!バルバレスコのクリュのワイン、2000円だよ!
 
 あっという間にピエモンテ滞在の3日間が過ぎてしまった。まだまだ見ないといけないカンティーナがいっぱいあるのに!名残惜しいランゲを後にした。

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