番外 ジーロ イル ノルドゥ イタ〜リア Giro il Nord Italia その2

 8月15日、日記編に投稿した日。そこには書いていないものの、今日は他にちょっとした出来事があった!
 とりあえずは明日の訪問に備えヴァルテッリーナ(Valtellina ロンバルディア州北部)に来たものの、昨日からどこに電話してもホテルの空きがない!この時期当然といえば当然。まずは宿探しから。このあたりの中心都市のソンドリオで探そうと思った。でも、街の人が少ない。いやーな予感。こんな時行けば何とかなるはずのインフォメーションが!閉まってるー。それもそのはず、今日は祝日。そんな日まで人のために働く人たちじゃない。おー、どうしよう。まだまだ起きたての頭にムチを打ち、対策を練る。・・・あてがない・・・眠くなる。これは行き当たりばったりしかない!考えることをやめ、とりあえず車を走らせた。
 
 しかし、慣れない土地・慣れない車・細い道。ゆっくり走っているとこれでもかと車が追い越していく。と、ちょっと見えた「Albergo (ホテルの意味)」の文字。とりあえず行ってみるか、と、フロントに直に入っていくと人気のないホテル。ひょっとして期待できるかも。やっぱり!残りは少なかったものの、シングル一部屋確保!しかも、小高い丘にある街のホテルで、眺めが最高!しかも安い!!おー、これが一番重要だ。半分あきらめていた今日の宿。ラッキー!こんな簡単に見つかるとは。ホッという言葉が自然に出た。(なぜ?昨日は車で一泊していたので!)
 さて、ここは山間の谷に広がる地域。こんなに間近に山を見たのはかなり久しぶり。ウンブリアにも山はある。でも、長野県出身の僕にしたら、あれは丘。山といえば荒々しい岩が剥き出しになった、人を寄せ付けないような雰囲気のあの山。「岳」この言葉がしっくりくる。ちょっとした出来事、簡単に質問したこの言葉から始まった。「この辺で一番高い山を見るのにはどこに行ったらいいの?」地図を見ながら主人が指をさしているのは、ここから山を挟んで反対側。「ここからみるのが一番きれいだよ!」有無を言わせぬ雰囲気。もう少し近くのところを指差すと、納得いかない表情。でも、まてよ。ん?山の反対側。地図では赤いラインが、またがってる。そこ、スイス?「そうだよ」とあっさり。「一応パスポートは持ってきな!」と。そんな、国境を越えるなんて考えてもなかった。でも、心の中ではもう行こうと思っていた。そんなこと言われて行かないわけにはいかないでしょ。
 さて、国境越えの緊張の一瞬。前の車たちはパスポートすら見せずにどんどんと通り過ぎていく。ヨーロッパ人はフリーパスなんだ、と思いながらパスポートを見せようと近づく。と、あれ、そのまま行っていいの?行け行けと手を振ってるじゃないか。あっけない国境通過だ。
 
 目的地の「パッソ デル ベルニーナ(Passo del Bernina ベルニーナ峠)」までは、ホテルから1時間。こんなに近いんだと関心。はーーーー、なんてキレイなんだ!4000メートルを越える山には氷河が横たわり、圧巻!ひんやりした空気が心地よく通り過ぎていく。心が洗われるとはまさにこのこと。美しい風景は、自然と頭を空っぽにしてくれる。そのままカメラを片手に1時間ほど散歩した。
 8月16日、今日はヴァルテッリーナの優良生産者2つを訪問。午前中は「アルド ライノルディ(Aldo Rainoldi)」を訪れた。実のところ、このヴァルテッリーナ訪問は、ヴァッレダオスタに行く予定を急きょ変更したもの。カンティーナ訪問のアポは、午後のサンドロファイも含めつい2日前にしたばかり。さらにヴァカンツァのシーズンなので遠慮がちに訪れたものの、どちらも今までで一番丁寧に応対してくれた。本当にあり難いの一言!
 さて、ここのカンティーナを見つけるのには少し苦労した。なぜ?ほとんどの場合、カンティーナのある場所はとても見つけにくい。しばし道をさまよい、人に尋ね、ようやっと見つかるか、運良く看板を見つけられるか。ここもきっとそのパターンだろうと、目的の街をさまようが、どこにもない。人に尋ねたくとも、ちょうどよいところに人がいない。何回も同じ道を通っているそのとき(この道は幹線道路で100キロ近く出して車が走る道なのだが)、とても大きく「RAINOLDI」と書いた看板と建物を発見。なんとこんなに分かりやすくて、分かりやす過ぎて見つけられなかった・・・。これが人生なのかなと、ふと思った一瞬だった。
 さてさて、さっきも書いた通り親切に応対してくれたのは、エノロゴでもあるアルド・ライノルディ。まさにカンティーナの名前にもなっているその人だ。まだ若く、30台半ばだろうか。早朝から畑に出ていたのを切り上げてきてくれた。まずは熟成庫。バリックと大樽、ステンレスタンクが並んでいるごく普通のもの。この地域の土壌は砂と泥土。同じネッビオーロを栽培しているランゲの白い丘とは正反対に、焦げ茶から黒に近い灰色をしている。そして、イタリアでは2つしかない酸度を持った土壌だという(もう一つはフリウリ)。バローロやバルバレスコのように力強いワインではなく、エレガントで繊細なワインが出来るとのことだった。
 
 ここはバリックと大樽をきっちりと使い分けている。ラベルにはバリック熟成したものには「Barrique」と書いてあるものもある。さて、試飲は「ギベッリーノ ビアンコ(Ghibellino Bianco)」から。白ブドウとネッビオーロを白ワインに醸造して造ったもの。スッとした酸味としっかりした厚みのあるワイン。次は、「ヴァルテッリーナ スーペリオーレ サッセッラ(Sassella) リゼルヴァ 97」、こちらは大樽のみで熟成され、スミレやラズベリーの控えめな香りがあり、スパイスの印象もある。さて、「ヴァルテッリーナ スフルツァート(Sfurzato) 98」は、大樽だけで熟成されたもの。スパイスなど、香りが強くとてもバランスの取れた1本。ここの看板ワイン「ヴァルテッリーナ スフルツァート フルッタイオ カ リッツィエリ(Fruttaio Ca' Rizzieri) 99」は、何度もトレビッキエーリに輝いているもの。素晴らしい凝縮感があるものの、ワイン自体はエレガントで、焼き栗やカシス・ヴァニラ・カカオなどの複雑な香り、優しくエレガントな酸味と熟したタンニン、素晴らしいの一言だ。
 アルドはとてもしゃべり好きで、9時にお邪魔してワインを2本買って外に出たのは昼の1時過ぎだった。そのあいだドイツ人の訪問者と一緒に試飲したり、テルニでの仕事の話、日本に帰ってからのことなどを話しながら、ワイン造りの苦労など生産者の生の声を聞くことが出来た。
 
 午後は「サンドロ ファイ(Sandro Fay)」を訪問。今のところイタリアでもそれほど名の通った生産者ではないが、家族経営でエノロゴのカルロは25歳ほど、スタッフは皆若く今後が楽しみ。
 こちらでは、まずは畑を案内してもらった。親切に色々なことを教えてくれ、また質問にも丁寧に答えてくれた。ここでも、メルローやシラーなどの外来新種にチャレンジしているよう。まだ樹齢が若く、市販するにはもう少し時間がかかるとのこと。最も興味深かったことは畑の植え替えだ。15日の欄に載せた写真のように、ここヴァルテッリーナでは斜面の上から下へ向かって畝を作るのが一般的なブドウの植え方だ。しかし、それでは十分に日光を受け止めることはできない。そこで今は、条件の整った畑(面積が広く斜度がきつくないなど)で斜面に対して水平に(等高線を描くように)ブドウの畝を造るように植え替えが少しずつ行われている。これによりブドウが日光を効率よく浴びることができる。この植え替えが可能になった背後には、排水の問題の解決がある。地下にパイプを通して水を下流に流す。そうしないと、段々畑状に造られた畑は、新しい植え方では大量の水を溜め込み、最悪の場合は決壊。大量の土砂が下の畑の上に覆い被さってしまう危険性がある。ここの土壌は砂と石が中心。表土は簡単に流されてしまうらしい。また、この地域の苦労は他にも、機械化が困難・小さな畑がさらに生産者ごとに細分化されているなど解決されるべき問題が多いよう。また、他の地域に比べ生産者同士の横のつながりが弱いらしく、それも今後の課題だと話していた。
 
 さてさて、カンティーナの中はやはりバリックと大樽が両方あった。これからは大樽を減らし、バリックの比率を上げていくようだ。また、ブドウをアッパッシメント(Appassimento 陰干し)する部屋を見た。外の風が入りやすいように工夫されていて、また、天気が悪いときには人工的に風を送ることもできる。もちろん、自然乾燥が一番ワインにするには良いとは話していたが。
 試したのは、「ヴァルテッリーナ スーペリオーレ サッセッラ 99」、こちらは大樽熟成させたもの。繊細で美味しい酸味があり、ラズベリーのようなフレッシュフルーツの印象が強い。次は、「ヴァルテッリーナ スーペリオーレ サッセッラ イル グリチーネ(Il Glicine) 98」、こちらはバリックで熟成されていて、チョコレートの香りがとても強い。「ヴァルテッリーナ スーペリオーレ ヴァルジェッラ カルテリア(Valgella Carteria) 98」は、スフォルツァートされたワインを5%だけ加えていて、よく熟したカシスやヴァニラの香りや滑らかさが増し、このちょっとしたアクセントがワインを複雑にしている。最後に、「ヴァルテッリーナ スフォルツァート ロンコ デル ピッキオ(Sforzato Ronco del Picchio) 98」、素晴らしい凝縮感があり、ワインに角が無くすべてが丸い印象。タンニンはよく熟していて、酸味もしっかりしていながらつんつんしてない。香りが強く、口の中で美味しい余韻が長く続く。まだまだ、これから実力を上げていくワインたち。今後を大いに期待したいと思った。
 
 今でも素晴らしいワインを造っているヴァルテッリーナだが、上に書いたように畑の改良が進み、さらに樹齢があがっていけばさらに素晴らしいワインが生まれるだろうと確信した。
 
 8月17日、今日は土曜日なので1件だけの訪問。フランチャコルタ(Franciacorta)の生産者、「リッチ クルバストロ(Ricci Curbastro)」だ。イゼオ湖から少し離れた、カプリオーロ(Capriolo)という街にある。イゼオ湖は、有名なガルダ湖やコモ湖と同じで氷河のあとにできた湖だ。土壌は、上流からゆっくりゆっくり氷河によって運ばれてきた砂と石が中心となる。そのためどの石も丸い。この土壌からあの高貴な“泡”が生まれる。
 カンティーナは今増築中。というか新しいカンティーナを造っている最中だった。地中からは100〜200kgはあろうかという大きな石がゴロゴロと出てきたよう。そう、この石も全部丸い。氷河の力強さを感じた一瞬だった。今では多くの工程が機械化されているスプマンテ造りだが、ここではいまだにルミュアージュを手で行っている。そのやり方や澱がたまっている様子、澱が瓶口に集まっていくのも見せてもらった。
 
 ここのフランチャコルタはどれもフルーティーで繊細な香りが特徴で、それほど澱の香りは強くない。リンゴやピーチの香りが心地よく香る。味わいも繊細で、きめ細かな泡とすがすがしい酸味、長い余韻。シャンパーニュで言うとクリスタルのような印象。品質も匹敵してる!?サテン(Saten)は特に評価が高く、泡の刺激が優しく口に広がり、長いあいだ口の中に余韻が残る。シャルドネらしいエレガントで清楚な1本だ。そのほかにも、テッレ・ディ・フランチャコルタ(Terre di Franciacorta)も素晴らしい。コストパフォーマンスも高い。気に入ったのは白のシャルドネ100%で造られた単一畑のものだ。バリックの香りが強いものの、ほどよいミネラル分・爽やかで線の細い酸味・しっかりしたボディー。3年ほどたってバリック香が落ち着いたときに飲んでみたいと思った。
 残念なのが、ここのワインは日本にはどうやら入っていない。確かに、フランチャコルタの生産者でカデルボスコとベッラヴィスタはイタリアでも別格だが、その他にも素晴らしいフランチャコルタの生産者はたくさんある。そういうワインも日本で飲めたら幸せなのに・・・。
 
 とりあえず1週間が無事に過ぎた。何よりも事故が無かったのが一番。さて、次の1週間は、次回の更新ということで。え?決して引っ張っているわけではありません。なにせ仕上げるのが大変で・・・。

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