番外 トスカーナ その1

 8月6日、同僚のグラツィアーノ(Graziano)と一緒にトスカーナのカンティーナをまわる4日間の小旅行に出発!午前と午後に1つずつ、1日に2つのカンティーナを訪問する。この時期ヴァカンツァで休みのところが多いものの、満足の行く予定が組めた。
 今日のプログラムは、午前中モンテプルチャーノの「アヴィニョネジ(Avignonesi)」。いきなりのアヴィニョネジはちょっと特殊すぎるカンティーナだった。まずはじめに、カンティーナから少し離れたブドウ畑を、オーナーのファルヴォに案内してもらった。一目瞭然、ブドウの仕立てがまるで違う!一見アルベレッロに見える。ファルヴォの話によると、その仕立ての名前は「セットンチェ(Settonce)」という。ここで説明するのはあまりに難しいが、簡単に説明すると
 ・まず、1本のブドウの木を基本にして、それを中心に正六角形を描く。
 ・そして、その各頂点に木を植える。
 ・それぞれの木は独立している。
 ・それを延々と続けると、それぞれと等間隔に並ぶ木が、三方向にきれいに整列した図を描くことができる。
 
 分かります?写真を見ていただければなんとなく分かるでしょうか。この方法だと、1本1本の木が同じだけの領地を持つことができ、かつ無駄な土地を省け、ブドウに与えるストレスを最小限にしながら高密植ができるということ。もちろん、専門の設備と技術が必要になるが。ファルヴォよるとこれ以上優れたシステムはないらしい。
 発酵は、伝統的な木樽を使う。といっても見た目は新しく、新しい技術だと見誤ってしまった。どこにでもあるステンレスの発酵タンクはない。アルコール発酵はこの木樽もしくはバリックで行われる。この木樽を使う理由の1つは、ステンレスタンクよりだいぶ小さいので、発酵やマセレーションの期間など、発酵の仕方を樽ごと少しずつ変えられる。そして、選りすぐれた方法を模索するとのことだった。イタリアのワインの歴史は、古くそうで新しい。更なる細かいデータ集めが必要だよと話していた。
 ここの目玉はやはりヴィンサントだろう。その熟成庫を見せていただいた。よく日の当たる風通しの良い部屋に、ごく小さな小樽が並んでいる。陰干ししたブドウをを搾り、この小樽にいっぱいに詰めロウで封印、10年間ひたすら待つ。ここでキーになるのは“マドレ(Madre)”。直訳すると「母」の意味だが、10年たってワインを抜き取った樽の底にたまっている澱の中で生きている酵母のことだ。ヴィンサントの出来のカギはどうやらこのマドレによって大きく左右されるらしい。その澱を精製して、陰干ししたブドウの果汁に少し加えて寝かせられるのだ。中で何が起こっているのかは不明だが、ゆっくりゆっくりとアルコール発酵が進み、比較的温度変化の多い部屋で十分に鍛えられる。そうして造られるワインは、最終的に10キロのブドウから375mlの瓶1本程度にしかならない・・・。シャトーディケムと一緒に売られているこのワイン、一度は飲んでみたい!
 次は、「ファットーリア ディ フェルジナ(Fattoria di Felsina)」を予約していた。キャンティークラッシコの最南端の街、カステルヌオーヴォ・ベラルデンガ(Castelnuovo Berardenga)にある。ここのワインのエチケット、必ず大きな字で「Berardenga」って書いてある。カンティーナだけじゃなく、この街のことも多くの人に知ってもらいたいという理由からだそうだ。
 まずは、ここの看板ワインの「フォンタッローロ(Fontalloro)」の一部と、「ランチャ(Rancia)」の畑を案内してもらった。畑によって土壌が変わるのがよく分かった。土の色、石の数・大きさなど、道を挟んだ隣同士の畑でかなり違う。また、畑の向き・斜面の角度、ミクロクリマという意味を納得した。しかし、このあいだ行ったバローロの畑のイメージが頭の中に強く残っていたのか、土地に対して畑の占める割合が少ないのに少し驚いた。キャンティークラッシコは、そもそも丘というよりは中規模の山が集まっている土地といった方が良いだろう。その中で栽培に適した限られた土地がブドウ畑やオリーブの畑になっているといった感じだ。キャンティークラッシコの土地の特徴でキーになるのが、ガレストロ(Galestro)と粘土だ。ガレストロというのは、堆積土壌で石灰分を多く含む岩、もしくは石。この石と粘土がちょうど良く混ざり合った土壌が最高の畑になる。確かにここの畑、赤茶色の粘土の中に灰色がかった石がゴロゴロとしていた。
 
 ここの特徴は、フォンタッローロはもちろん、キャンティーもサンジョヴェーゼ100%で造っていることだ。まずは、キャンティークラッシコ 2000を試飲。サンジョヴェーゼらしいピュアな酸味と爽やかな果実味を持つワインだ。次は、キャンティークラッシコ リゼルヴァ ランチャ 99を試した。これは優雅さや繊細さを持つタイプで、しっかりとしたボディーとキリッとした酸味がワインを支えている。まだまだ若すぎて、どこまで成長するのか楽しみ。次は、フォンタッローロ 99。こちらも変わらず、生き生きとした酸味があるが、よりボディーがしっかりしていて色も濃い。素晴らしいと思ったことは、どのワインを飲んでもこのカンティーナの特徴がしっかりと感じられることだ。ラズベリーやイチゴを想わせる果実味と、活き活きとした酸味。ブドウの特徴をしっかり活かし、畑や太陽の恵みをワインに反映させる。そんな感じがした。
 
 予約してなかったものの、飛び込みで「サン ジュスト レンテンナーノ(San Giusto Rentennano)」を訪れてみた。ここもキャンティークラッシコの最南端。よりシエナに近いエリアにある。いきなりの訪問にも快く応対してくれた。試飲したのは、キャンティークラッシコ 2000・キャンティークラッシコ リゼルヴァ 99・ペルカルロ(Percarlo)99。素朴で小さなカンティーナの印象とは逆で、ワインはしっかり芯の通ったものだった。ペルカルロは実力どおり、完熟したブドウの印象とともにふくよかで滑らかな味わい、さらにしっかりした酸味を持ち、99年のトスカーナを代表する1本だと思う。バランスが良く、また長期熟成により更なる向上が期待できる。
 無事に初日が終了。夕食はシエナ市内の中華料理屋で食べた。ずっと運転してもらったお礼に、グラツィアーノに箸の使い方を指導。なかなか上手くいかない!チャーハンや春雨は食べられても、さすがにワンタンを箸で食べることは出来なかったよう・・・。
 
 
 8月7日、午前中の予約は「カステッロ ディ アーマ(Castello di Ama)」。昨晩の激しい雨とは一転、風が強いものの良い天気になった。そう、今年のイタリア(ヨーロッパ全体)の天気はかなり異常らしい。8月に入ってからも低温が続き、昼間の気温が上がらず夜は肌寒い。そしてやっかいなことに、雨が多い。作柄を心配するカンティーナがほとんどだ。
 さてはじめは、ここの畑が一望できる庭に移動。メルローの植えられている畑や、キャンティークラッシコのクリュ、土壌・仕立て・収穫の話など、事細かに説明していただいた。以前は多くのクリュの名前の入ったキャンティークラッシコを造っていたものの、最近では良年のみ限られたクリュしか発売していないそうだ。なぜか?一番の大きな理由は、樹齢があがっていることなどから普通のキャンティークラッシコの品質が、クリュの畑と遜色ないものになってきたからだそうだ。そうなればクリュの意味はない。さらに、ボルドーのシャトーのように、ノーマルなキャンティークラッシコをここの看板ワインに育て上げたいという欲望があるとのこと。このことには、僕も大いに賛成。他の生産者でも何度か同じことを聞いた。近年の「カステッロ ディ ブローリオ(Castello di Brolio)」のように、生産量の多いカンティーナが、良質なキャンティークラッシコを回復してきたことを、このエリア全体のこととして、とても喜ばしいことだと話していた。スーパータスカンをほとんどのカンティーナで造っているものの、どこも声をそろえて話すことは“キャンティークラッシコ”というワインを第一に考えているということだ。これを聞いてすごくホッとした。
 
 収穫の際、気をつけていることは、後の選果だ。収穫する人間のうちプロは一部だけ。学生などが混じっているからだ。そこで、あがってきたブドウを選果台に乗せ、ここはプロの6人で不適格なブドウを厳しくはじく。このことがワインの質にとって、とても重要だと話していた。その後は温度管理のいきとどいたステンレスタンクでアルコール発酵。必要とあらばセニエを行う。そういえばここのロゼワイン、有名らしい。少しだけアルコール発酵が進んだ段階でセニエを行い、取り出した果汁は別のタンクで発酵を進めロゼとして出荷する。美味しそう!
 さて試飲・・・、の前にカンティーナから少し離れた、もともと城のあったところの小さな町(実際はこの町、全部カンティーナ所有)にあるバリック熟成庫で2001年のワインを、樽から試飲させてもらった。とある素晴らしいワインを!名前は秘密。でも、これだけは言える。2001年は今からチェックしとくべし!発売はまだまだ先だけど・・・。
 ここで試したのは、白の「アル ポッジョ 2000(Al Poggio)」。シャルドネを主体に、ピノ・グリージョとマルヴァジーアをブレンド。爽やかなフルーツの印象が強く、バリックで発酵しているためバニラやアーモンドの風味があるものの、それほどコッテリしたものではない。次は「イル キウーゾ 2000(Il Chiuso)」ピノ・ネロ100%。僕の大好きなブルゴーニュには及ばないものの、イタリアのピノとしてはトップクラス!そして、「キャンティー クラッシコ 99」。熟した果実の風味が強く、とてもまろやかな感じ。そのあとはなんと!「キャンティー クラッシコ ラ カスッチャ 97(La Casuccia)」。後で見たところ、エノテカで100ユーロを切っている所はない!こんなものを試飲させていただいていいの?うん、いいの。でも、やっぱりまだまだ熟成が必要。全てを通していえることは、ここもカンティーナの主張がワインに表れているということ。完熟した印象が常に残り、やや鋭い感じがいつも残るサンジョヴェーゼの酸味を和らげている。しっかりしたボディーなのに、常に気品を感じる。完成度の高いワインだ。
 最後にここの土壌。とっても石が多い。緩やかな斜面はとても日当たりが良く、キャンティークラッシコエリアではかなり標高が高いものの、ボテンシャルはかなり高いと思った。当たり前?それと、ここのワインにリゼルヴァというタイプはない。でも、法律的にはすべてリゼルヴァになるそう。今のDOCGではリゼルヴァが必ずしも品質の高いものとして規定していないということで、あえてリゼルヴァとはしていないそうだ。
 午後の予約は、「カステッラーレ(Castellare)」。どうやらここのカンティーナ、予約が上手く出来ていなかったのか忘れていたのか・・・。他の予約が入っていたようで、そちらに人を取られてしまった。畑はカンティーナのまわりにあるので、簡単に説明してもらい、カンティーナの中もさっと見せてもらった。試飲したのは3種類。ワイン自体は美味しかったけど、あまりにアッサリと終わってしまったので、書くのもアッサリと終了。
 
 今日は宿を取るために近くの町までおりた。キャンティークラッシコの中の宿泊施設は、ものすごく高い。グラッツィアーノは「ここはヴェネツィアか!」って怒ってた。きっと近くの比較的大きな町は安いだろうとふんで、ポッジボンシ(Possibonsi)という街に行った。ラッキーにもインフォメーションが開いていたので飛び込んでみると、おばさんが親切に友達のアグリトゥーリズモに電話してくれた。1泊25ユーロほど。家族経営で、夕食は夫婦とその子供3人と一緒に食べる。気取ったところのない人たちで、楽しいひと時だった。
 
 さて、少し時間を巻き戻して・・。今日の宿が発見できたところで、またワイナリー直接訪問を決行。今日の狙いは「カーザ エンマ(Casa Emma)」。こちらも、嫌な顔ひとつせずに応対してくれた。畑はカンティーナを囲むようにあり、かなり樹齢が古そうなものがある。まずは樽からメルローを試飲。当然まだまだ飲める段階にはないが、瓶詰め後が期待できる凝縮感。その後は試飲・販売の部屋に移動して、ひとつひとつ説明をもらいながら試飲。ここのワイン、今回たずねた中でコストパフォーマンスとしては一番だと思う。一番安いタイプのキャンティークラッシコは、ここの土地やサンジョヴェーゼというブドウの個性をしっかり持っていて、飲みやすく仕上がっている。熟成タイプではないが、気軽に少し冷やして飲むワインとしては最高の品質だと思う。
 
 帰りがけに、「イーゾレ エ オレナ(Isole e Olena)」のカンティーナを発見。もう7時を回り、かなり無茶だと思いつつも突撃決行!さすがに今日はダメだと言われたが、なんと明日の朝一ならいいよとの話。「早起きしてでも来よう」とグラツィアーノとアイコンタクトを交わし、8:30の予約を入れた。
 夜は先程書いたように、気さくなファミリーとの一晩。ここの旦那さん、なんとサンジミニャーノのカンティーナで働いているそうだ。昔はモンテプルチャーノにいたんだとか。ラベルも何もないワインを飲みながら、いろいろな苦労話を聞いた。

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