第1回

2003 ウナ ジータ イン イタ〜リア Una Gita in Italia (1)



 今年もアポイント取りから始まった。この仕事が意外としんどい。まずはメールを一斉に送るが、ほとんどの場合返事がこない。そのあとは電話。もちろんイタリア語での会話。特に、アルトアディジェに電話するときは一番困った。一発目の言葉が、「アロー?」と言われる。どうやらドイツ語での電話の出方らしいが(ホント?)、そこからイタリア語で切り出すものの、ドイツ語のイントネーションの強いイタリア語が返ってくる・・・。
 
 さて、今年の北イタリアのワイナリーツアーは、6日間。色々行きたいところを絞りに絞って、フリウリ・トレンティーノ・ヴェネトの3州に絞った。この猛暑の中生産者は何を考えてブドウ畑に立っているのだろう?
 今年イタリアに来たのが6月の下旬、今日まで傘を差さないといけない雨にあったのが、1回だけ。それでも旅行のときの天気はと気になるもの。さいわい当分今までの晴天が続くようだ。しかし、本当に雨が降らない。猛暑というよりも、“旱暑”という字を作りたいくらいの雨の少なさ。もともとイタリアの夏は湿度が低くカラッとしている。それにましてこの旱魃。しばらく前から、野菜・果物の値段が上がっている。フィレンツェの町を1日歩いたときは、一人で500mlの水を4本飲んだ。
 今までの僕の知識だと、雨が少ないというのはワイン造りにとっては好条件のはずだ。だが、この極端な旱魃はそのレベルを通り越して、ワイン造りにも悪影響を及ぼしているという良くない情報を幾度か聞いた。何せ、パリでは何千人単位の死者を出している猛暑。100年来のものだとか。その辺も含め、聞いてみたいことはたくさんある。


 初日の8月13日、早朝にウディネ(Udine)駅に着いた。今年は、昨年の最終地のフリウリから始める。一年ぶりの左ハンドル車、右側通行、慣れない交通システム・・・。やっぱり緊張して手にじわっと汗をかく。さて、最初の目的地は昨年飲んで感銘を受けた「ソーヴィニョン ロンコ デッレ メーレ(Sauvignon Ronco delle Mele)」の生産者、ヴェニカ(Venica)。ウディネからスロヴェニア方面に車を走らせ30分もすると、なだらかな丘陵地帯が始まり同時にブドウ畑が広がってくる。この景色を見るとなんだかワクワクしてくる。ヴェニカのカンティーナはドレーニャ デル コッリオ(Dolegna del Collio)という小さな町のハズレにあった。ここのDOCは町の名前から分かるとおり、コッリオ(Collio)になる。
 カンティーナに入り、挨拶を済ませて中を案内してもらうが、新しく増設しているようで奥までは見せてもらえない。そしてここの人たち、よく働いていて(?)何だかちゃんと相手をしてもらっている感じではない・・・。すぐに試飲が始まるが、1つ注いでどこかに行って、少し経つと戻ってきて違うワインを注いでまたどこかへ。話をあまり聞く時間がもてずに試飲は終わってしまった。それでもこの暑さの影響を聞いてみると、やはり収穫がだいぶ早まるようでソーヴィニョンに関してはもう来週の頭にも始まるとのこと。例年に比べると10日から2週間近くも早いようだ。そのせいか、ここの人たちの性格か、みんな1つのところにとどまらず忙しく働いていた。
 ロンコ デッレ メーレの畑がすぐそばとのことなので、行ってみることにした。早速ブドウの味見から始める・・・、甘い!!これじゃやっぱり収穫間近というのも納得だ。ブドウ自体も緑色よりも黄色に近い色をしている。木の太さから推測すると、樹齢はだいたい15年から20年。この木からあの香り高い、イタリア最高といってもよいソーヴィニョンが生まれるのかと、ずいぶん納得した。今年はどうなんだろう??「今年は難しい年だ」とは、生産者はなかなか言わないもの。その辺は十分に考慮しながら話を聞かないといけないが、その話すらあまり聞けなかった。どうやら収量がだいぶ減って、凝縮度の高いものになるよう。でも、最終的に収穫してみないと分からないというのが、なんだか最後の返答だったような気がする。来年2003年が出るのが今から楽しみだ。


 今年は、予め全部の宿を予約済み。フリウリでは、「アル コンフィーネ Al Confine」という宿に泊まる。直訳すると、“国境に”という意味になるだろうか。フリウリの優良生産地域はスロヴェニアとの国境沿いに集中している。たまたま見つけたアグリツーリズモの宿は、まさに国境沿いにあった。歩いて3分、国境警備のゲートがすぐそこにあるので驚いた。間近に見える100m先の家はもうスロヴェニアのものだということ。日本人にとって国境というのはピンとこないものだが、ここから先はかつての東欧だと思うと、なんだか不思議な気分だった。
 
 さて、午後一番はリス ネリス(Lis Neris)を訪ねた。“リス ネリス”とは、フリウリの方言で、イタリア語にすると、「レ ネーレ Le Nere」。日本語にすると、“黒い女性たち”ということになる。2次大戦後、日本と同じ敗戦国のイタリアは多くの男手を失い、ブドウ畑開墾のために黒い衣服を着た多くの女性が働いていたという歴史からつけられた名前だそうだ。今もこのカンティーナには多くの女性がかかわっているに違いないという感じの、やわらかい色使い、センスの良さを感じさせる雰囲気を持っている。
 ものすごい早口で案内してくれたのは、ステファーニァ(Stefania)。なかなか聞き取るのが大変だったが、カンティーナの隅々まで丁寧に案内してくれた。ここでも、白ブドウを例年よりも早く収穫するとのことで、その準備でカンティーナの清掃を丁寧にやっていた。予約した時点では、夏休みの最中だけど特別に案内してくれるという話だったんだけど・・・。ブドウを早く収穫するとなれば、さすがのイタリア人も休みを返上(変更?)して働くのかと、当たり前だけど妙に感心した。この旱魃について?の答えは、今この時期になってしまえば、いまさらもう雨はいらないとの答え。きちんと散水をしていたのでとの理由。ただし、酸度が低くなるのと、出来上がったワインのフレッシュさがどこまで残っているのかというのが心配だと話していた。
 この地域を代表するブドウの1つであり、特にこのカンティーナで一番重要なブドウは、ピノグリージョ(Pinot Grigio)だ。まずは、イソンツォ ピノグリージョ(Isonzo Pinot Grigio)を試飲。一番安い価格帯のもの。ピノグリージョとは思えないほどの香りの高さにびっくり。ステンレスタンクだけを使って造られた、すっきりしていて上品なタイプ。決して飲み飽きのしない好みの味だ。そして2つ目のピノグリージョは、グリス(Gris)、バリックを使い木の香りがついている。今のところ、その香りが突出してしまっていて、ちょっとバランスにかけるのかなと思った。そして、リス(Lis)の番。シャルドネ・ピノグリージョ・ソーヴィニョンのブレンド。とても上品で、ソーヴィニョンからくる爽やかなハーブの香りが特徴。酸味が強いので、少し熟成してから楽しみたいと思った。最後に、コンフィーニ(Confini)。正直に、こういうタイプのワインはほとんど飲んだことがない。ピノグリージョ・トラミーネル(Traminer)・リースリング(Riesling)のブレンド。強く立ち上るよく熟したバナナ・桃のような甘やかな香り、色は濃く輝きのある黄色。口に含むと、一瞬だがはっきりと甘さを感じる。だが決してバランスを失っているわけではなく、全てが微妙に組み合わさっている。何に合わせるかというのはちょっと難しいが、こういうはっきりとした個性を持っているワインにはなかなか出会えないなと思った。

 今日の最後は、ラ ヴィアルテ(La Viarte)の訪問。ピコリット(Picolit)とヴェルドゥッツォ(Verduzzo)を混醸した甘口ワイン「シウム(Sium)」が、特に有名だ。ここは、カンティーナを取り囲むようにブドウ畑が広がり、生産地域は「コッリ オリエンターリ デル フリウリ(Colli Orientali del Friuli)」、約してCOFの地域に入る。その畑を見せてもらった。なかでも、一番興味を持っていたピコリット(Picolit)をじっくり見せてもらった。聞いていたのとは少し違う姿をしていた。野生種に近くあまり実の付きが良くなく、実と実の空間が大きいというのが僕の知識だった。それが逆にブドウの、また糖分の凝縮度につながり、天然の甘口ワインになると。ところが写真でわかるとおり、普通のブドウの房とあまり大差がなかった。どうやら、年によって実の付き方が違い、ほぼ隔年で良く付く年と付かない年が巡ってくるようだ。
 さて、そのシウムを試飲してみた。黄色というよりも、薄い茶色に近いほどの濃い色をしている。うまい!!!!!もちろん、とても糖分のある甘口だが、上品な甘口ワインには必ずある、適度な酸味。これによって、後口が甘ったるくならずにすっきりと楽しめる。もちろんこれも、甘さと酸味、さらにミネラル分・アルコールととてもよくバランスが取れている。間違いなくこの地域を代表する甘口の1本に違いない。その他、メルロ・カベルネのブレンドの「ロイ(Roi)」や、トカイ(Tocai)・ピノ ビアンコ・ソーヴィニョンなどをブレンドした「ビアンコ リエンデ(Bianco Liende)」など、どれもとてもエレガントな印象で、比較的酸味が強く、インパクトの強いものではないが、食事に合わせると美味しいタイプだと思った。また、4・5年寝かせてみても面白い。ここのもうひとつの特徴は、ボトル。ほぼ黒に近いビンに黒のラベル。一度見たら忘れないほどのシンプルさ。最後には、自家製のサラミなどもご馳走になってしまった。これもまた、絶品だった。

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